一人親方のYさん中皮腫で労災認定

Yさんは秋田県出身で、中学卒業後に集団就職し、埼玉のO工務店に大工見習いとして働き始めた。そして、学校など鉄鋼ビルの解体・改修工事の片付け作業で、綿状の吹き付けやスレート破片等に含まれる石綿を取り扱った。一人前の大工となってからは大手建設会社から内装工事を請け負った。内装材を切断する際に石綿の粉じんに曝露したのかもしれないということだった。

Yさんから相談があったのは昨年11月で、すぐに相模原にあるご自宅にうかがい、Yさんから職歴など聞き取り調査を行った。そして、石綿曝露の事実を確認したうえで、Yさんが抗ガン剤治療をしている北里大学病院のケースワーカーの協力を得て、相模原労基署に労災請求した。

ところが、労基署の調査がなかなか進まない。複数の建設会社から仕事を請け負っていたので職歴の確認に手間取ったこと、また、Yさんが特別加入していた2つの保険組合の加入の事実と掛け金納付の確認に手間取った。一つの保険組合は、保険料が掛け捨てになっていることを理由に書類を提出しなかった。結局、もう一つの保険組合に特別加入した労災保険を使うことになったが、管轄が違うために厚木労基署に移送された。中皮腫の労災申請については迅速に処理するよう本省から指導されているにも関わらず、結局、請求から認定まで5ヶ月かかった。

さらに、労災給付金の支給決定通知書を見ると、給付基礎日額が6000円で補償は一日4800円になっていた。厚木労基署は、02年11月~04年12月の2年間、特別加入していた期間の保険料(日額6000円)で算定し、基礎給付日額を決定したのだった。しかし、これは中皮腫発症までの潜伏期間が20年~30年であることを考えると合理的ではない。

厚生労働省は、特別加入者の石綿労災の給付基礎日額に関して、以下のような通達を出していている。
「特別加入していた期間における石綿ばく露作業が、それ以前の作業内容と異なり極めて軽微な石綿ばく露作業である一方、労働者期間における石綿ばく露作業が石綿関連疾患にり患する恐れの高い作業であったと認められるなど、当該特別加入期間における保険関係、給付基礎日額をもって保険給付を行うことが明らかに不合理な場合については、当該特別加入期間以前において、石綿ばく露作業に従事した最終の事業場の保険関係及び給付基礎日額をもって保険給付を行うこと」(「労働者としての石綿ばく露期間のある特別加入者の給付基礎日額の取扱いについて」事務連絡 平成21年8月6日)。

この通達に従えば、Yさんは、特別加入期間以前の30年前に工務店で労働者として働いていた時期の平均賃金で算定すべきである。ちなみに、一人親方の平均的な補償日額は6000円弱で、Yさんはこれと比べてもかなり低い。確かに、Yさんが保険料をもっと掛けておけばよかったという考え方もあろうが、アスベストによる被害を想定して、高額の保険料負担を一人親方に期待するのは暴論であろう。

建設職人の一人親方は、収入も就労形態も労働者とさして変わらないのが現状で、高額の保険料はかなりの負担だ。労災になっても、生活できないような不十分な給付しか受けられないような実態があるとすれば、特別加入制度そのものの見直しが必要ではないか。

Yさんの場合、アスベストに曝露したのは30年以上前と考えられるので、日額の決定を不服として、審査請求する予定だ。しかし、当時働いていた工務店はすでに閉鎖され、給料明細などで平均賃金を確定することは難しい。こうしたことを考えていくと、やはり一人親方であっても実態としては労働者に近い建設労働者のアスベスト被害については、一定の賃金水準で労災補償していくことが必要ではないだろうか。