改正された労災審査請求制度の実務的対応について

改正された労災審査請求制度の実務的対応について

 14年に成立した「行政不服審査法及び行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」という長い名前の法律が16年4月から施行された。やはり長い名前の「労働保険審査官及び労働保険審査会法」などが改正された。今までと異なる点は大きくいって3点ある。

 1つは、不服審査請求ができる期間が、処分を知った日から60日以内から3ヶ月に延びたこと。2点目は、口頭意見陳述に際して、原処分をした労働基準監督署に対して質問ができるようになったこと。3点目は、文書その他の物件を閲覧又は交付できること。このうち1点目は、どうしようか迷うことのできる期間が1ヶ月長くなっただけであるし、3点目もすでに個人情報開示請求で閲覧又は交付されていたので、それで開示される範囲と通常は変わらないようなので、やはり一番大きな改正点は、監督署に質問できるようになったことであろう。そうは言っても元々、審査請求の対応は弁護士が携わることもあまり多くないためか、(審査請求や再審査請求の進行と関わらず行政訴訟を起こすことも多い。ただし、行政訴訟の代理人になってくれる弁護士自体が少ない)、あまり知られていない。

 私は16年4月以降、現在に至るまで、東京労働局で1回、神奈川労働局で3回、公務員災害補償基金神奈川県支部審査会で2回、審査請求の代理人として口頭意見陳述してきた。その中で得た経験を報告するとともに、審査請求で原処分取り消しを勝ち取るためにやるべきことやさらに改正すべき点を、まとめて提案する。

■1、まずは審査請求、あわせて個人情報開示請求をしよう

 労災業務上認定を心待ちにしていたのに…、会社はともかく労働基準監督署の担当者も親切だったのに…、「不支給決定」はとてもつらい。確かに認定基準は厳しいし、どうせダメみたいだからもうあきらめようかな、でもやっぱり納得できない…、迷いながらセンターに相談に来る人はたくさんいる。

 そういう場合は、お金がかかるわけでもないし、決定理由もそれなりに詳しくわかるので審査請求とあわせて個人情報の開示請求をするよう勧める。審査請求については決定書に書いてあるので理解している人が多いが、個人情報の開示請求は教えてくれないのでほとんどの人は知らない。個人情報保護の観点から、同僚の聴取内容などが墨塗りになるが、担当者がまとめた復命書や集めた資料を入手できる。それを見れば、何が不足していたのか、どういう解釈をしたのかが明らかになる。要するに、審査請求で何を立証すればよいのかが見えてくる。時々それを見てから審査請求をするかしないかを決めようとする人がいる。ただ、開示は原則30日以内だが、資料が多いことなどからさらに30日延長されることが多い。そうなると決定を知った日から3ヶ月になったとはいえあまり時間もないので、審査請求と同時に開示請求した方がよいだろう。

■2、実は、原処分庁に質問できるということが知らされていない

 16年7月、ちょうど私は新宿労働基準監督署の不支給処分取り消しを求める審査請求の代理人になった。担当になった労災保険審査官から受け付けたという文書が送られてきたのだが、そこには、「意見書等を提出すること、口頭で意見を述べること、その際に原処分庁に質問をすることもできます」と書いてあった。さらにしばらくしてから、新たな裏付け証拠の有無(あるとすればいつまでに)、口頭意見陳述を希望するかしないか、意見陳述の代わりに意見書を出すか出さないか(出すとすればいつまでに)を尋ねる文書が送られてきた。それはアンケートのようになっていたのだが、私はそれらを無視して、「個人情報開示請求中の原処分庁の復命書等の資料を検討した上で、労働基準監督署への質問を行い、その回答を踏まえて、意見陳述ないしは意見書の提出をします」と書いて返送した。

 実は、厚生労働省の労災保険審査請求事務取扱手引を全国安全センターを通じて入手していたのであるが、そこでは、意見陳述までに質問を文書で提出することになっており、意見陳述の場で口頭回答があること、再質問できるが、仮に答えられなくても、意見陳述の場を改めてもう一度設ける必要はないなどと書かれている。そうした細かな指示や説明はおろか、そもそも質問したい場合どうするかと言った説明が何もないのだ。

 審査官に電話をかけて、まず、自分はいいが、何も知らない被災者には、質問の方法や流れをきちんと説明する文書を送るように改善を求めた。それに対して審査官は、「法施行後、原処分庁への質問を受けるのは初めてなので、こちらも慣れていなくて・・・」と言う。

■3、質問に対し、監督署も事前に文書で回答すべきだ

 口頭意見陳述の持ち方や質問と回答の仕方にも問題が多い。審査請求人側は、原則として事前に文書で質問することを求められるのだから、監督署も文書回答をすること、それで納得できない場合は、再質問するので再回答することや、それが無理なら意見陳述を必要に応じてもう1度入れるなどの工夫を求めた。審査官は何度も「初めてなので慣れてなくて」と謝るのだが、謝られても仕方がない。全国で最も労災保険請求が多い=審査請求も必然的に多いはずの東京局ですらこのような対応では困る。さらには、口頭意見陳述の時間は30~40分ぐらいでと言う。監督署に質問ややり取りをしているだけでそのぐらいの時間は終わってしまうだろう、1回しかしないのならばなおさら時間が必要だと抗議して、90分まで確保した(結果として2時間近くかかったのだが)。

 東京労働局に対して、改めて、監督署に口頭意見陳述の10日前までに文書回答させること、1回で十分ではない場合再度口頭意見陳述を行うこと、審理調書を作成して審査請求人等に文書開示することを求めた。ちなみに裁判所では、原告や証人尋問の前にできるだけ争点を明らかにするし、その場で話したことはきちんと調書でまとめられるので、それを前提に最終準備書面をまとめる、ごく当たり前の流れである。

 17年に実施された別の方の審査請求では、神奈川労働局の労災保険審査官に、監督署への質問を送ったところ、なかなか口頭意見陳述の場が設定されなかった。どうしたのかと問い合わせたところ、何度か審査官と監督署がやりとりをしているという。つまり、審査請求人が納得しない回答をすれば、口頭意見陳述自体が意味がなくなってしまうし、もう一度やってもらいたいなどと言われかねない。言うまでもないが審査官も労働基準監督署の決定を審査するにあたって、審査請求人と同じように疑問を感じたり、質問をしたいことがあったため、そうした対応となったのであろう。ところが、別の審査官の時は、あまりそうしたやり取りはしなかった(必要と感じなかった)ようで、質問に対する回答があまりにもお粗末だったので、再質問したところ、監督署が困って黙り込んでしまうような状態になってしまった。

 やはり質問と回答は事前に文書で行い、口頭意見陳述で補足して、最後に意見書をまとめるのがお互い合理的だと思う。

■4、医学的なことは一切回答しない地方公務員災害補償基金支部

 以上のような経験を踏まえつつ、県立高校教員の公務外決定取り消しを求める審査請求の代理人となったので、その時の経験も報告したい。

 その方は、17年7月に審査請求した。審査会からの受理通知と併せて、口頭で意見を述べることを希望するかしないかの回答を求める文書が同封されていた。ところがそこには、基金に質問ができる云々と言った説明は全くない。そこで審査会事務局に電話をかけて、法改正で質問ができるようになったはずだがどうなっているのかと抗議した。問い合わせ先は基金神奈川県支部審査会書記**(氏名)、神奈川県人事委員会事務局公平課内とあるから、県の職員である。意見陳述の際に質問できるということだったが、何の記載もないのはおかしいではないかと改善を求めた。実は約一年前にほぼ同じ会話を東京労働局労災保険審査官としたことを思い出した。

 公務外決定は正しい理由を記した基金支部の弁明書が八月に届いていたので、反論書を11月に提出した。それから約3ヶ月後の18年1月26日に、3月20日に、口頭意見陳述を実施するとの通知が届いた。そこで初めて質問の有無や内容を尋ねられ、内容を2月16日までに提出するように書いてあった。その方は因果関係はもとより、病名も含めて診断や医学的解釈が大きな争点になっていたため、当然医学的な内容の質問書を提出した。

 3月20日に開かれた意見陳述に際して、まず基金支部から回答があった。ところが、支部は基本的に医学的なことは踏み込まず、支部専門医の意見に基づいて判断したという回答に終始した。具体的に何を聞いても、医学的なことは答える立場にないとして、一切答えない。労働基準監督署ならば、ある程度のことは答えるのであるが、とにかく弁明書に書いてあることの繰り返しに終始した。ほとんど質疑応答の意味がない。残念ながら、審査会の委員も、それはそれでかまわないという態度で、民間とは違うからなどと言うが、冒頭述べた通り、あらゆる行政処分等に関する不服審査のあり方が改正されたのだからと反論したところ、黙ってしまった。

 18年5月にも別の方の口頭意見陳述があったが、やはり同じ態度であった。私がめげずに、何度も何度も質問するので少しいらだった様子で、「私個人としては見解があるが、ここでは言う立場にない」と、いかにも役人らしい回答を述べていた。

■5、質問と回答のやり取りを通じ争点を焦点化する

 上記のような実態なので、あまり質問する意味がないのではないかと考えられるが、実はそうでもない。例えば裁判所の原告・証人尋問では、各々の主張の正しさを裁判官がつかもうとする。とりわけ反対尋問で、しどろもどろになったり、不合理なことを言ってしまったりすると、主張の根拠が薄いのだという心証を持ち、敗訴につながる。

 意見陳述での質問と回答も同じような効果がある。監督署などがうまく答えられなかったり、答えてもよさそうなことまで答えなければ、その点については、少なくとも調査が不十分、審査の余地があるということになる。そして、審査請求人側が何にこだわっているのか、どこが不当だと考えているのか、審査官や審査会に何をしてもらいたいのかがわかるはずだ。

 ちなみに原処分庁は、個人情報開示請求の結果、どの部分が開示されていて、どの部分が非開示なのかは知らないし、その理由もいちいち把握しているわけではない。だから、明白な個人情報は無理でも、開示された資料からはわからない事実関係などが、質問を通して判明することがある。

 以上のような観点から、十分に検討して質問をすること、やりとりをすることが求められる。不当な不支給決定、公務外認定については、全て審査請求段階で業務上にさせるように頑張りたい。(川本)