職場のセクハラをどうとらえるか(よこはまシティユニオン春闘学習会より/2019年3月2日)

大須賀啓子
(女のユニオンかながわ執行委員/よこはまシティユニオン特別執行委員)

■「セクハラ」が89年流行語大賞を受賞

いま、ニュースなどでもさまざまなセクハラ問題が取り上げられているのをみると、声を挙げることの大切さをしみじみ思います。「セクシュアル・ハラスメント」という言葉が日本に上陸する前はどんな状況だったでしょうか。

セクハラという言葉が上陸して一般的になったのは1988年です。翌年に流行語大賞の新語部門で金賞を受賞します。それ以前は、働いていた女性たちは職場で性的な言動を受けて、どう感じていたのでしょうか。男性はこういうことを言うもんだと思って、気にしないようにしていた人たちがいました。男性たちが聞こえよがしに猥談をしていると、積極的にその輪に入っていく女性もいました。もちろん、とても不快に感じる女性もいました。積極的に入っていく女性たちは、大人の女性ならそれくらいのことは聞き流したり、対応するのが一人前と思っていました。そういう女性たちは、不快だと思っている人たちを、「潔癖すぎる」「神経質すぎる」と評価していたこともあったと思います。

このような見方は今も変わっていません。例えば、介護職場では、利用者の対応に不快を感じる人がいる一方で、同性でも感じない人がいて、不快を感じる人が肩身の狭い思いをすることがあったりします。

セクハラの事例は、軽いものから深刻なものまで当然あったと思います。だけど表ざたにはならなかったということが現実だったと思います。セクハラという言葉が88年に登場して、「なんかおかしい」「不快だ」と内在化していた女性たちの声が、やっと表面化したといえます。言葉というのは大事なんだなと思います。

■闘いの原動力は悔しさや怒り

それまで、働く女性たちは、女性差別の問題で何を一番不満に思っていたのか。定年差別、昇格差別、賃金差別です。みんなで裁判を起こして争い、勝訴したり和解したりして歴史を変えてきました。64年に住友セメントの女性労働者は、結婚退職制により解雇されたことに対して裁判を起こし、最終的に勝利和解しました。67年、東急機関工業で働く女性労働者は、男55歳、女30歳という定年制はおかしいと裁判を起こし、69年に勝訴しました。69年には、日産自動車で働く女性労働者が、男55歳、女50歳という定年制はおかしいと裁判を起こしました。「一歳の差別は一切につながる」と闘って81年に勝ちました。

75年以降は、男女の賃金差別、昇格差別をなくそうという闘いが全国で起こりました。95年、住友生命で働く女性労働者12名は「既婚であることを理由に昇給や昇格で差別された」と裁判を起こし、02年に勝利和解しました。女性たちの悔しさ、怒りが原動力になって、裁判で争い、社会に普遍化していった歴史があります。これは忘れたくないことです。

■男女雇用機会均等法が成立

79年に国連総会で女性差別撤廃条約が成立し、80年に日本も署名しました。背景には、各地の女性たちが闘って差別を少しずつ克服してきた成果があります。もう1つは、高度経済成長の中で日本は金もうけだけか、女性差別はそのままかという海外からの批判があったと思います。国も、批准するために平等法を作ろうという動きになります。

女性たちは独自の行動を起こします。私たちは、東京の仲間が中心になって「男女雇用平等法を創る会」を結成して、厚労省前でハンストなどをして運動を展開しました。その一方で、総評の女性部も頑張りました。私たちが作った平等法案にはセクシャル・ハラスメントという言葉は入っていません。そういう考え方自体がその時にはありませんでした。86年に、男女雇用機会均等法がつくられた時に、これまで先輩の女性たちが法廷で闘った成果として、結婚退職と定年差別が禁止規定となりました。しかし、配置・昇格は努力義務とされました。97年の改定均等法で、やっとすべ て の男女差別が禁止規定になりました。

■セクハラ損害賠償訴訟

90年に、静岡地裁沼津支部でセクハラ裁判の判決がありました。上司から触られたりキスされたりして体調を崩し、退職を余儀なくされた女性労働者が損害賠償を求めて裁判を起こし、当然勝ちました。だけど責任を負わされたのは行為者だけで、企業責任は問われませんでした。

92年には、福岡地裁で環境型セクハラ裁判の判決がありました。出版会社のとても仕事熱心な女性に対して、同僚の男性が面白く思わず、得意先に彼女のプライベートなこと、それも性に関わることを吹聴し退職に追い込みました。これに対し、ハラスメントを訴えて損害賠償訴訟で争いました。この事件は、行為者だけでなく、会社そのものが損害賠償を命令されました。

92年から95年にかけて米国三菱の女性労働者がセクハラ被害を受けたとして、96年に26名が連邦地裁に民事訴訟を起こしました。最終的には総額950万ドルの和解金が支払われました。さらにハラスメントは極めて深刻と判断され、原告だけでなく、原告と同様の被害を受けた人々全員を救済する訴訟形態であるクラス・アクション(集団訴訟)を起こされて職場の女性全員に賠償金を支払いました。

こうした流れに沿って、日本でもセクハラをどうにかしなければいけない、使用者にとっても膨大な損失が出てきているということになります。

■雇用管理上の配慮を義務

遅ればせながら99年に均等法の改正が行われ、セクハラに関して、初めて事業主に雇用管理上の配慮を義務付け、同時に指針を発表しました。いつも法律は現実の後追いが一般的です。

指針には次の4つの特徴があります。
(1)事業主として、セクハラはあってはならないということを周知・啓発する。セクハラ行為をしたら処分する。

(2)相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備をする。相談窓口をあらかじめ定める。相談窓口の担当者はそれなりの知識をもち対応できる者でなければならない。

(3)セクハラが起きた場合、事実関係を正確に確認する。事実が確認できたら、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適切に行う。そして再発防止のために制度を見直す。措置とは、被害者と加害者を引き離すための配置転換とか被害者に対する謝罪、加害者への処分などです。

(4)被害者・加害者双方のプライバシーの保護。被害者が相談窓口に相談したこと、事情聴取で第三者に事情聴取をしたことなどの協力により不利益な取り扱いをしてはならない旨を定め、労働者に周知・啓発する。

大手企業ではその前頃から作成していました。
06年には、それまでは配慮義務でしたが措置義務になり強化されました。この時にあわせて改正されたのが、セクハラの対象者を男女労働者とすることです。99年の段階では、被害者は女性という前提でしたが、被害者は男性もあり得るということです。具体例です。被害者は女性ですが、団体交渉に出てきた会社側の事務局長自身が20年前に女性管理職にセクハラ被害を受けた経験を持っていました。団交でもセクハラ被害について被害者に非常に共感を寄せていただいて早期に解決しました。男性の被害者も出てきているんだなと実感しました。

それと、公的な調停機関等による是正指導に応じない場合は企業名公表の対象にすることが加わりました。14年には、同性によるもの、LBGTも被害を受けたら対象になりました。
セクハラ規定を作っているという会社は圧倒的に多いです。しかし機能していないのが実情です。具体例です。被害者が相談窓口に行って相談すると、相談員は真剣に聞いてくれました。しかしその報告に基づいて処分を決める時のセクハラ委員会はみな役職者、しかも年配の男性でした。セクハラに対する被害者の痛みを感じない人たちが処分を決めるのです。セクハラ研修を行なっているということが免罪になっていることもあります。

■具体的事例

セクハラとはどういうことなのか、具体的事例をあげます。被害者への関心から発生するものには、言葉によるもの、視覚によるもの、行動によるものがあります。

言葉については、名前を呼べばいいのに「おばさん」とか。ファッションは美意識の自己表現ですが「若い子と張り合って」とか。さらに私生活をしつこく聞いてきたり。
視覚については、事務所に女性のヌードやセミヌードのポスター、カレンダーを貼るなどです。
行動としては、断られても執拗にデートに誘う、折に触れてさりげなく身体に触れる、人けのないところで抱き着く、キスをするなどです。

被害者を傷つけることを目的としたセクハラ・パワハラもあります。例えば、「もう子供を産める歳じゃない」「女を仕事で使えるのは37歳までだ」などの発言です。

セクハラを受けると心身等への影響はどうなるでしょうか。仕事をやる気がなくなった、自分に自信をなくした、職場での口数が減った、出社拒否感情・遅刻・欠勤がつづく、イライラ・無気力、ノイローゼ等の精神疾患症状、自分が女性(男性)であることが嫌になった、などの状態に陥ります。

■セクハラが発生する背景

では、セクハラが発生する背景にはどのようなことがあるでしょうか。男性労働者が多く、女性労働者が少ない、意思決定の場に女性労働者が少ないなど偏っている状況に疑問をもたず、当り前と捉えている環境があげられます。職場が、女性労働者を働く仲間として対等な存在としてではなく性の対象として見ている、固定的な性別役割に縛られた見方でとらえ、そしてそれを許すような社風があります。また、組織のトップが自らセクハラをおこなっていることがあります。さらに、長時間労働が多い、仕事量が多くストレスが蓄積している状況に置かれていたりします。

■グループ討論より

以上の講演を踏まえ、この後グループに分かれて討論を行いました。多くの労働組合がハラスメントに真剣に取り組もうとする姿勢が見られない中でユニオンはどんなことができるかついて。あるグループの報告です。

1、ハラスメント防止は、安全・安全に仕事を進めることの基本ととらえる。
2、日常的に人間関係をつくりあげる。
3、認識をもった学習会を行ない信頼関係を築く。
4、社会的問題としての意識を持つ。
5、成果主義などの分断をまねく会社の政策に反対する。
6、経験談を交流・共有する。

それ以外のグループからも、啓発活動をしたら1年後に検証をする、ストレスの発散は弱い立場の者に向かうので気を付ける、などさまざまな意見が出されました。

最後に、講師からまとめとして、対策は会社に任せるのではなく、労働組合としても職場でアンケートをとって実態調査をすることの重要性が提起されました。その結果を組合員に報告して議論し、会社の対応姿勢も点検し、改善させていくことが大切です。