全国安全センターメンタルヘルス・ハラスメント対策局:厚生労働省交渉

ILO条約批准に向 けて更なる法改正を

ILO(国際労働機関)は六月の総会で、「仕事の世界における暴力とハラスメント条約」を採択した。日本政府も賛成したが、批准するためには国内法のさらなる整備が必要である。厚労省の担当者の回答によると、「禁止規定」と「第三者によるもの」の範囲が大きな課題だという。この二点は使用者側の抵抗が強い。つまり、業務指導との境目があいまいで、ハラスメントの定義がはっきりしないので禁止するのは難しい、取引先や顧客などからのハラスメントの対応には限界があるというものだ。

交渉の回答では、五年先の検討を待たずに改正すべきところは検討して改正していくという意気込みを感じるものであった。やはり更にハラスメントを許さない取り組みを強化し、グローバル経済でお金儲けしか考えていない、世界の常識からかけ離れた使用者を追い詰めていかねばならない。

ハラスメント防止ガイドラインを充実したものに

労働施策総合推進法等が改正されて、企業がハラスメントを防止する義務が課せられる。具体的に、どのようなハラスメントに対してどのように対応すべきかを、厚生労働省がガイドラインで示すことになっている。厚労省担当者の回答によると、八月から労働政策審議会を開催して、年内にはガイドラインが確定するとのこと。ハラスメントに限らずどのような法的定義も抽象的なものになるので、ガイドラインではできるだけたくさんの具体例を列挙する必要がある。

厚労省の担当者は、判例などを参考にしてというが、裁判の判例はきわめて限られており、事実認定も含めて主張そのものが大きく対立しているものであり、実はあまり参考にならないことが多い。厚生労働省が把握している労災認定事例を参考にすることを求めたが、法律の定義づけと「ひどいいじめいやがらせ」は必ずしも一致しないという一般的な回答にとどまった。しかし、具体例を参考にすること自体は否定していないので、厚労省および労働政策審議会に対して、できるだけたくさんの情報を提供することが求められている。

メンタル労災の認定基準の改正を

精神疾患に限らず、労災認定基準の改正を求めると、多くの場合、「現在の医学的専門的見地から検討されたもので、今のところ問題はないと考えます。新たな専門的な知見等が明らかになった場合は必要に応じて改正の作業に入ることになります」という教科書的な回答を聞かされることがほとんどであった。

ところが今回の交渉では、こちらの趣旨も理解する姿勢も示した上で、「不十分な点があれば検討していきたい」、「業務外の事例の分析もしていくつもりである」という前向きな回答があった。具体的な検討作業が始まっているわけではない(始まっていても言えないのだろうが)とのことであったが、少なくとも、かみ合う議論ができたことは有意義であった。

精神疾患で療養中の労働者の場合、「特別な出来事」(心理的負荷が「強」よりもさらに大きなストレスがあるとされる)がないと認められない。それは発症後のストレスなどを全く評価しないこととも関連している。元気な人が心理的負荷が「強」で休業すれば労災認定されるのに、もともと精神疾患の障害を抱えつつ、あるいは発症後療養しながらもさらに頑張って働いた人は「強」では救済されないのはどう考えてもおかしい。早急な改正を求めたい。

労働時間の事実認定がおかしい

精神疾患にせよ脳・心臓疾患にせよ、長時間労働による過労が原因となることは言うまでもない。ところが労働基準監督署の労働時間の算定について、請求人の主張を認めず、より厳しく=過少評価されることが増えている。会社には労働時間を適正に把握することが求められており、法改正で客観性を求められることになった。しかしながら、実態として、客観的に把握していなかった場合、会社側の主張を鵜呑みにする、少なくともよくわからない場合は働いていないとみなす事例が多すぎる。

東京の監督署でしばしば経験してきたのであるが、神奈川でも同様の事例が増えているようだ。認定率が低い理由として、長時間労働が確認できなかった事例が増えたというのだ(21頁の表参照)。本省としては認定基準や調査方法を変えたことはないということなので、今までの請求人の主張を尊重する現場の対応が、会社の主張を尊重するものに変わったとしか思えない。