東北地域でのアスベスト被害者の掘り起し:松館寛(NPO法人石綿被害者支援の会)
岩手県の中皮腫被害の補償状況は全国46位
今年5月の連休前に鈴木さんからの携帯が鳴った。錦糸町駅で共同代表の右田さんと鈴木さんから話を伺った。「中皮腫サポートキャラバン隊」の全国行脚の一環として、東北活動を一緒にしませんかという趣旨だった。
お話を聞いて、中皮腫サポートキャラバン隊の目的である中皮腫患者の交流の意味を十分に理解は出来なかった。何故なら東北では宮城県を除くと中皮腫死亡者の労災保険、石綿救済制度の認定率は50%を少し超えたに過ぎない。関東や関西と違い中皮腫の患者の会の団体や活動も耳にしたことはなかった。
私たち「NPO法人石綿被害者支援の会」の主たる活動地域の岩手県の中皮腫死亡者数は1995年から2017年まで169人、労災認定は16人、石綿救済制度認定は69人で救済率は50・3%、認定率は全国46位(全国安全衛生センター調べ)。
岩手県内の自治体に石綿相談の窓口について聞いても「過去に相談例が無いので分からない」と言われ、岩手県北の地域振興センターでは中皮腫の石綿救済制度の申請は3年間で無し。二戸労働基準監督署での労災保険の受付はこの3年間で2件のみ。労基署の担当課長は私たちNPOの活動に好意的だったのは救いだったが。
青森と岩手で病院まわり&記者レク
このような東北の現状があるので「中皮腫患者どうしの交流会」はなかなか難しいと話し、「相談会」とセットならば良いのではと提案した。取り入れてもらえて、「中皮腫サポートキャラバン隊」と「NPO法人石綿被害者支援の会」の共同開催で行うこととなった。
事前の周知活動として7月4日に青森県内をまわった。記者クラブはちょうど参議院選挙の公示日と重なり記者は留守のため資料投げ込み。その後、青森県立病院、弘前大学付属病院のがん相談支援センターを訪問し、担当者と面談。両病院とも個別的な中皮腫患者はつかんでいなかったが、チラシとリーフレットを配架してもらう。キャラバン隊から藤原さん(胸膜中皮腫/青森・岩手会場の講演者)も病院まわりに同行して頂いたが、難儀な車での移動となってしまった。
翌5日の岩手県内まわりでは当NPO法人で共に活動する齋藤元全建総連岩手県連会長が合流し、運転してもらった。岩手県庁では地元紙の岩手日報が取材してくれ、岩手医科大学附属病院、岩手県立中央病院、花巻市の岩手県立中部病院を訪問した。各病院とも一定の問題意識はあるものの具体的な患者との接触はできず、こちらもチラシの配架をお願いする。
岩手の川久保病院で講演会&交流会を開催
7月27日、青森県青森市での相談会&交流会。交流会には中皮腫患者さんは見えなかったが、毎日新聞青森支局の岩崎記者が参加し、精力的に取材してくれ、後に毎日新聞に記事が載る予定。翌28日の岩手県盛岡市の会場は民医連に加盟する川久保病院、かつて松尾鉱山の粉じん治療や山林従事者の職業病に取り組んだ病院である。この日は岩手日報での開催告知報道があり、相談会に3名、交流会に7人が参加。当日は体調がすぐれなかったキャラバン隊の右田さんは、地元大阪からインターネットで講演した。
参加者からは「藤原さんのお話しで中皮腫のことが良く分かった」の声。全建総連岩手県連の参加者からは「すごく解りやすく組合員にも聞かせたいので、次年度は開催方法を検討したい」などの感想が寄せられた。
秋田と宮城での取り組み
続いて9月19日、秋田県秋田市、20日は宮城県仙台市で事前の病院まわりと記者会見を実施。仙台市の記者会見では東北地方をエリアとする河北新報が取材し、宮城県版に掲載された。東北労災病院のがん相談員はアスベスト・中皮腫にも理解が深く、「時間があれば参加してみたい」と。
そして10月5日に秋田市、6日に仙台市で相談会&交流会を開催。秋田市での会場は全建総連秋田建築組合の会館を使用させていただく。残念ながら一般参加はなかったが、組合長と事務局長が参加し「勉強になった」との声。北海道から講師で来てくれた田中さんによるキャラバン隊の歌を聴いて散会した。
仙台市では河北新報の報道や病院に配架して頂いたチラシを見て2人の中皮腫患者さんが参加し、中皮腫治療などについての情報交換や交流を深めた。宮城県石巻市から参加した中皮腫患者さんは東京土建の組合員と聞いた。東北地方の出稼ぎ建設労働者が石綿ばく露し、故郷で療養している現実が見えました。
牛のように粘り強い気風で
中皮腫サポートキャラバン隊の東北開催は、病院回りや新聞報道などを通じて掘り起しへの一石が投じられたのではないでしょうか?
今後の課題としては、キャラバン隊、患者の会、被害者の会などが医療団体や地域活動団体、労働組合などと連携し、あらゆる垣根を超えたネットワークの構築の必要です。東北の人間は寡黙で行動力が足りないけれど、牛のように粘り強い気風を持っていますから。