センターを支える人々:山岡遥平(弁護士 ・神奈川総合法律事務所)
私は、弁護士として仕事をする中で、大きな軸を労働事件、特に過労死・労災事件に置いています。そうなったきっかけは、偶然の事件との出会い、としかいいようがないものですが、生きるために働いているのに、その労働によって心身が傷つき、時にはなくなってしまうという実態に触れて、言いしれぬ悲しみを覚えました。今でも、事件に触れる度に感じる気持ちは最初の事件と変わらないどころか、社会的に問題が解決しないため、悲しみは増している感じすらあります。
さて、最近、立て続けにアスベスト関連の相談を受けています。皆様のご支援によって日立田浦工場にお勤めだったKさんの第1回期日も無事終わりました。
相談を聞いていて、改めて感じさせられるアスベスト被害の恐ろしさは、すぐに被害が現れるのではなく、曝露から数十年後に病気が明らかになる点です。同じ職場で働いていた人がアスベスト関連の病気になったらしい、となれば、自分もいつかは、という恐怖に襲われるでしょうし、アスベストの健診を受けていても、いつか自分が発症してしまうのではないか、と怖い思いをするでしょう。
弁護士として辛いのは、時間が経過していると、どのような状況で、どのような業務の中で、どのようにアスベストに曝露したのかが曖昧になってしまいがちなところです。Kさんの件でも、会社は、津波で資料が流されたから業務の詳細はわからない、と主張しています。私たち弁護士の仕事は、依頼者の方や周りの方から事情を聞き取り、また、その他の手段で証拠を収集ないし評価して、裁判所や役所に説明したり、相手方と交渉したりすることです。そのためには、役所や裁判所に、具体的に被害の状況を理解してもらい、労災認定基準や医学的な知見に基づき、「そういうことなら,この方の疾患はアスベスト被害によるものだね」と理解してもらうことが必要なのです。もちろん、アスベスト以外の労災事件でも同じです。
この点について、労災職業病センターでは、類似の労災認定事例、会社との交渉のケース、裁判になったケース等、様々な情報を持っていますし、人のネットワークもあります。同じ会社で似たような時期に働いていた方を紹介していただくこともできます。
そうすると、我々も、ご本人(場合によってはご遺族)から聞き取るよりも具体的に業務の内容を把握できますし、当時の資料を収集できる可能性が高まり、資料があればより説得的に被害を訴えることができるようになることが多いのです。
私たち弁護士も、様々なケースを扱うことによって知見を集積していますが、いかんせん、個人個人であるため限界があります。労災職業病を専門で扱っている労災職業病センターでは、我々にはないほどの情報を持っており、非常に助けられています。
これからも、労災職業病センターと力を合わせて、労災被害者の救済と、労災職業病の予防に努めていければ、と考えています。