パワハラ対策:対策指針は不十分!だからこそ職場で取り組もう

職場におけるパワーハラスメント対策が法的に義務化される。厚生労働省が1月15日付で「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下、「パワハラ対策指針」という)を発表。内容を簡単に紹介し、どう活用すべきかを提案する。【川本】

定義や事例に惑わされないことが大切

ハラスメント対策の法的義務化と言っても、ハラスメントそのものを明確に禁止するものではなく、あくまでも対策を講じることを義務付けるに過ぎない。従って、パワハラ対策指針も「禁止」指針ではなく、「対策」指針に過ぎない。一方で、法的に禁止するとすれば、定義や範囲が厳密にならざるを得ないが、対策であれば、なるべく広い概念でハラスメントをとらえるべきであり、そうしなければ十分な対策ができないはずだ。残念ながら、パワハラ対策指針の作成議論においても定義や範囲の問題が主要な課題となってしまった。

パワハラ対策指針の冒頭で、職場のパワーハラスメントは職場において行われる、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③の要素をすべて満たすものをいう。

この後に、パワーハラスメントに該当すると考えられる例と該当しないと考えられる例が示される。いちいち紹介しないが、わざわざ該当しないと考えられる例を示した理由がわからないし、意味がない。そして該当する事例も、そこまでやらなければ問題なしと誤解されかねないものがある。例えば、「相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること」とある。当該相手にだけでもそういうメールを送ることは不適切極まりないと考えるのが常識ではないか。あるいは当該相手ではない人に送るのも問題だ。パワハラ対策指針に記された定義や事例に惑わされることなく、被害者や周囲の労働者が、「ハラスメントじゃないか」と感じた場合、速やかに相談を促すことが重要だ。

適切な相談対応について議論しよう

パワーハラスメントの被害者の多くがなぜ、会社に相談しないのか。法律がないからではない。一言でいえば、全く信用していないからだ。パワハラ対策指針では、相談に対応する体制の整備として以下の措置が義務付けられた。①相談に対応する担当者をあらかじめ定めること、②相談に対応するための制度を設けること、③外部の機関に相談への対応を委託すること。そして「パワーハラスメントが現実に生じている場合だけではなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること」とした。重要なのは担当者や制度や外部機関に委託することではなくて、まさに「適切な対応」実績をあげて、労働者に周知して信頼を得ることに尽きる。やはり、定義や範囲にこだわっていては不可能である。

会社の内部だけでハラスメントに対応することは極めて困難である。だからこそ多くの被害者が相談もせず会社を辞めることで「解決」したり、健康を害して退職している実態がある。どのようにすれば、「ハラスメントが発生するおそれがある」段階で、対策を講じられるのかを、きちんと議論することが必要になる。

望ましい取り組みは全て実行すべき

個人事業主、インターンシップへの対応、取引先や顧客からの迷惑行為への対策に取り組むことなどが「望ましい」とされた。本来「望ましい」ではなくて、義務とすべきであろう。
一方で、パワハラ対策を講じる際に「必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要である。」という部分は本当に重要である。安全衛生の視点から言えば、対策の運用状況ではなくて、職場のハラスメントの実態をアンケート調査することが具体的な予防対策の第一歩であると考える。

原因や背景要因は労働者個人の意識?

パワハラ対策指針で、最も理解に苦しむ、異質な文章がある。それは、パワハラの原因や背景となる要因を解消するために事業主に望ましい取り組みを促すところで、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については職場におけるパワーハラスメントに該当せず、労働者がこうした適正な業務指示や指導を踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要であることに留意することが必要である。」としている箇所。

あたかも適正な業務指示や指導をパワハラだと訴える労働者の意識が問題ではないか、と言わんばかりの説明だ。そもそも業務指示や指導を適正に行うことは、事業主のマネジメント能力の問題である。事業主こそパワーハラスメントを指摘されないように、「真摯に業務を遂行する意識」をもって仕事をしてもらいたい。

具体的取り組みを職場で強化しよう!

パワハラ対策指針は不十分なものであり、問題点も多い。しかしながら、パワハラ対策を取り組むことを義務付けたこと自体は大きな一歩である。それを意味のある一歩に、さらに二歩、三歩と前進させることは現場の労働者、労働組合の役割である。仮に禁止法ができたところで、職場の取り組みがなければ意味をなさない。具体的な取り組みを強化しよう。