職業性胆管がん事件(安全センター情報)

全国労働安全衛生センター1・2月合併号の特集は「職業性胆管がん事件」である。この問題の端緒は、大阪の印刷会社のSANYO-CYP社(以下「会社」という)の労働者の友人が、関西労働者安全センターに相談にきたことに始まる。2013年後半の経過を、同センターの片岡さんがまとめている。【川本】

2013年9月26日、大阪労働局は労働安全衛生法違反の疑いで、会社と社長を書類送検した。被疑事実は、衛生管理者を選任していなかったこと、産業医を選任していなかったこと、衛生委員会を設置していなかったことである。2001年から従業員数が50人以上となったらしいので、違法状態はずっと続いていたことになる。2013年5月に事件が発覚して労働局の指導で是正されたが、行政指導に直ちに従って書類送検に至ることはあまりない。
報道によれば、労働局監督課は、「衛生管理体制が確立していれば被害の拡大を防ぐことができた」、「多数の労働者が死亡している重大性を考慮し、書類送検に至った」と説明している。しかし、会社の方は、「法律の知識が不足していて、義務を認識していなかった」と述べている。真摯な反省はみられない。
会社の17名の胆管がん被害者のうち14名が2003年以降に発症している。とくに03年、04年には立て続けに在職者が発症し、在職のまま死亡している。大阪労働局は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けたそうだが当然である。ただ、こうしたことがどうして見過ごされてしまったのであろうか。会社を管轄する大阪中央労働基準監督署は何をしていたのか。会社の本社工場ビル兼社長自宅は、大阪労働局の南500メートルにあるのだ。
被害者の会は、会社と4月21日から12月1日まで5回にわたって会社と話し合いを持った。しかし会社は「知識がなかった」、「胆管がんが発症するとは誰もわからなかった」と言い訳を繰り返しており、労働局が指摘する被害の拡大責任さえ、認めようとしていない。
例えば、1980年代後半からジクロロメタン(DCM)などの有機溶剤中毒防止規則対象物質を使用しながら一切、安全対策を講じてこなかったことについて、「そのような物質を使っていたことを証明する資料がない」と開き直っている。

当時の従業員の証言を尊重しない態度を取り続ける会社への被害者の不信感は高まるばかりだ。胆管がんを発症することがわからなくても、有機溶剤への対策を講じておけば、当然被害は出なかったはずだ。それを認めたくないがために、DCMなどを使用していたこと、対策を講じていなかったことを認めたくないのだ。被害者の会には17名の被害者のうち14名が参加しており、話し合いは今後も継続する。