職業がんをなくそう集会in東京

2月19日に職業がんをなくそう集会が品川区中小企業センターで開催されたので報告する。同集会は、第1回が昨年6月に大阪で、第2回が昨年10月に福井で開催され(本誌16年11月号で報告)、今回は3回目となる。主催は職業がんをなくす患者と家族の会で、化学一般労働組合連合や全国労働安全衛生センター連絡会議が協力している【鈴木江郎】。

■職業がんの現状と課題

記念講演は、毛利一平さん(ひらの亀戸ひまわり診療所)が「日本における職業がんの現状と課題」について話した。
国際がん研究機関(IARC)によれば、発がんの可能性がある417要因のうち4割の168要因が職業と関連があるとされている。しかし、ほとんどの化学物質の有害性については未確認であるという課題が挙げられた(アメリカの化学物質データベースには1億2500万種の化学物質が登録されている)。
日本の現状では、まず職業がんの研究者がほとんどいない事、厚生労働省の職業病統計がほとんど機能していない事、職業がんに対する関心が低いまま、被害発生後に原因物質を規制するという被害の後追いばかりで予防の観点が希薄である事を挙げられた。
戦後の高度経済成長期に、鉱工場で働く多くの労働者が高濃度の発がん物質にばく露していたはずで、「潜伏期間」を考えると、発症時期の終わりが今ごろなので、今を逃すと永遠に因果関係の解明が失われてしまうと危機感を訴えた。

■三星化学工業で膀胱がん多発

「職業がんをなくす患者と家族の会」代表の田中康博さんが、勤務先の三星化学工業でO|トルイジンにばく露し膀胱がんを発症するに至る経過を話された。三星化学工業では製品粉体の袋詰め作業、機械内部の粉体かきとり作業において、集塵機能がなく大量の粉塵が舞っていた事、作業環境測定を実施していたものの現実を反映していないと思われる事、安全衛生教育が不足していた事など、会社の安全衛生面での問題点を指摘した。
そのような労働環境で14年2月頃にAさんが、15年2月頃にはBさんも膀胱がんを発症し、「ひょっとして?」と頭をよぎったが、行動に移せなかった。しかし同年8月にCさんも発症。原因がO|トルイジンだと確信し、化学一般労働組合関西地本に三星化学工業で起きている膀胱がん多発を報告するに至った。
その後、田中さん自身や他の同僚も膀胱がんを発症。労災請求を決意するも、三星化学工業は労災証明を拒否するなど問題に真摯に対応しないので、「このままでは労働者の命と健康がさらに脅かされる」「これ以上のばく露をさせない」「これ以上の罹患者を出さない」ために職場で労働組合を結成。会社や厚生労働省との交渉を繰り返し、16年12月にようやく労災認定されるに至った。
三星化学工業の労働者は組合に命を救われた。同社福井工場ではO|トルイジン、2,4|キシリジン、アニリン等の芳香族アミンを扱っているが、「安全データシート」(SDS)が職場に配置されたのは11年秋頃と最近で、しかもSDSに基づく安全衛生教育は全く無かった。組合が要求して初めて安全教育を実施させるなど、労働組合がなければ職場環境や全ての労働条件の問題で根本的な解決を図ることはできないと知った。職場の仲間の命と健康を守り、安全・安心の職場をつくる、膀胱がん検査も強化され、ばく露対策も進んだのは組合があるからだ。

■コールタール作業者の膀胱がん

福岡・九州社会医学研究所所長の田村昭彦さんは、「コールタール作業者の膀胱がん」について報告した。
コールタールは石炭を高温乾留した際に生じる油状物質で、ベンゼンやベンゾ[a]ピレン(BaP)などの有害成分を含有しているが、安価なことからコーティングや塗料として屋根や舗装に使用されている。日本では山際勝三郎らがウサギの耳に3年以上コールタールを塗擦し続けて、世界で初めて実験的に化学物質によるがんを発症させたことでも有名。
症例報告としてA氏(80代男性)に生じた膀胱がん、腎盂がんとコールタールを用いた防水作業、舗装作業との因果関係および労災請求の取組を報告。A氏は防水工事および舗装工事において、コールタールおよびタールピッチを溶解させた「レーフ」を製造し、レーフに砂および石粉を混ぜて塗布する。レーフの製造過程および再溶解過程において、揮発性の青黄色いガスが発生し強い刺激臭と、皮膚刺激があった。
コールタールおよびタールピッチは「ヒトに関する発がん性を認め(日本産業衛生学会)」られているし、疫学的にも高濃度ばく露群は膀胱がん発症が有意に増加している。A氏においても作業内容の聴き取りから高濃度ばく露が推察される。
しかしながら労働基準監督署は、①60年以上前の作業実態を証言するものがいない、②82年9月27日付通達「タール様物質による疾病の認定基準について」に膀胱がんの病名がないことを理由に不支給とした。これは科学の進歩に背を向けた不当決定と言わざるを得ず、不服申し立てをしている。

■有害物質曝露と上顎洞がん

「木材粉じん及びホルムアルデヒド等の有害物質曝露との関連が疑われる上顎洞がん事例」を毛利一平さん(ひらの亀戸ひまわり診療所)が報告。 副鼻腔悪性腫瘍は罹患率が人口10万人対1~2人という稀な疾患で、このうち上顎洞がんは80%。副鼻腔悪性腫瘍は一般人口における絶対危険度が低く、かつ特定の化学物質や職業環境による相対危険度が高いことから、環境由来のがんの危険因子を同定しうる。
建設会社の現場監督をしていた40代の男性Aさんの上顎洞がんの発症事例が紹介された。Aさんは監督として建築現場に出入りする機会が多く、現場では大工が材木の加工切断作業する際に発生する木材粉じん、また内装作業におけるクロスの糊・接着剤や塗料に含まれていたホルムアルデヒド等、防蟻処理におけるクロルピリホス等の有害化学物質にばく露したと考えられる。
Aさんは建築現場において、大工が木材を切断作業時にはくしゃみや鼻水が良く出たり、内装工のクロス貼り作業時には刺激臭が強く、目の痛みや頭痛を訴えていた。Aさんの木材粉じん及びホルムアルデヒド等の有害物質へのばく露歴は21年にわたり、鼻腔・副鼻腔の炎症を繰り返した後に上顎洞がんを発症しており、現場監督業務との因果関係が疑われる。
またAさんに限らず、建設作業団体の大工5770名に質問調査したところ、その70%が木材取り扱い時に何らかの自覚症状を訴えており、鼻水は52%、くしゃみは51%の大工が自覚症状を感じていた。症状と関連があると考えられる木材としてはモアビ、ラワン、米杉および合板等が挙げられている。ラワン材などの製材が安く輸入され、一戸建て木造住宅の建築が多かった時期は86年以降であり、同様の事例が潜在している可能性があり、早急な実態調査が求められる。

■塗装作業者の疾病事例

その他、職業がんをなくす患者と家族の会の取り組みとして、セルソルブ等に濃厚ばく露した塗装作業者の疾病事例の報告があった。
治具に耐熱塗料を塗装する労働者がバージャー病と診断された。他の同僚も体調を崩している。職場で使用されていた主な化学物質は、ブチルセルソルブ、ジクロロメタン、MEK、IPA、トルエン、硫酸、水酸化ナトリウム、フッ素樹脂などである。
また徳島県においてもO|トルイジンを原因とした膀胱がんが発症するなど、芳香族アミンを取り扱った事業場で様々な臓器のがん発症が確認されており、協力して調査していくことが重要な課題だと報告された。
最後に本集会で採択された集会宣言より抜粋する。「芳香族アミンに関する規制はまだまだ一部に過ぎず極めて不十分な状態だと言わざるを得ない。このままではまたいつか職業性膀胱がん(他の臓器がんも含め)が再発するであろうことから、私たちの力を結集し国に対する働きかけを強化していかねばならない。(略)私たちは、国際的に立ち遅れたこの問題に対し、更なる運動の前進を目指して、共同・協力の輪を広げて突き進むことを確認するものである」。