厚生労働省は、Oさんの有機溶剤中毒・化学物質過敏症を労災として認めよ!

厚生労働省は、Oさんの有機溶剤中毒・化学物質過敏症を労災として認めよ!

 花王を相手に闘った、Oさんの有機溶剤中毒・化学物質過敏症損害賠償裁判は、今年7月2日に東京地裁で判決が出され、約2000万円の損害賠償を花王から勝ち取った。しかし、労災に関しては、昨年9月6日付けで和歌山労基署から不支給決定を下されている。

 不支給の理由は、(1)Oさんの急性中毒症状は、クロロホルム等の曝露があったにしろ健康障害をきたす程度のものではなかった、(2)急性中毒症状の特徴的症状は麻酔作用や肝腎障害であることから、これを伴わないOさんの症状は当該業務による中毒症状とは認められない、(3)Oさんは「化学物質過敏症」と診断されたが、その診断根拠自体に医学的・病理学的な裏付けが認められておらず、遷延する症状と化学物質との関連性自体明らかでない、というものだった。

 この理由は同労基署が依頼した専門医の意見書に全面的に依拠したものだが、極めて不当である。なぜなら、Oさんは花王和歌山工場の検査業務におけるクロロホルム等の有機溶剤の曝露状況について、再現実験を実施し管理濃度、個人曝露濃度ともに許容濃度をはるかに超える高濃度であったという中地重治氏(熊本学園大学社会福祉学部教授)作成の報告書を提出しているからである。しかも、Oさんの申告に基づいて同労基署監督課の臨検の結果、局所排気装置設置義務等、保護具支給義務及び作業環境測定義務の各違反が認められるとして是正勧告もされているのである。それを単なる有機溶剤の推定結果に過ぎない中災防意見書をもって「繁忙時において許容濃度を越えるばく露があったが」「全体として見たときに健康障害をきたす程度のばく露があったとは認められなかった」とするのはあまりに苦しい言い訳である。

 また、「急性中毒症状の特徴的症状は麻酔作用や肝臓障害であって、末梢神経障害ではない」と断定して憚らないところは極めてズサンな大阪医科大学某医師の意見書をほぼ丸のみにしたものだ。さすがにOさんの急性症状が「上司とのトラブル」による「精神的ストレス」とする説は採用しなかったにしろ、労災不支給の理由としてはまさに語るに落ちたと言うべきであろう。

 正しくは、Oさんが反論書で主張している通り、有機溶剤の認定基準である労規則35条別表第1の2の通り、クロロホルムの症状又は障害は「頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、中枢神経系制御又は肝障害」であり、Oさんが証言している「眩暈、吐き気、頭痛などは日常的にあり、更に酷く酩酊状態になると屋外に退避した」と合致している。

 化学物質過敏症が労災の対象となるかならないかということについては、Oさんら化学物質過敏症の患者とNPO法人化学物質過敏症センターが、2013年12月19日に阿部知子衆議院議員の紹介で要請したときの厚生労働省の見解を再度紹介しておこう。

 「化学物質過敏症を発症したとして労災請求いただいた場合であっても、その化学物質の使用状況や症状の経過等調査した結果、請求人の疾病が労働基準法施行規則別表第1の2第4号に基づく告示に示されている物質あるいはそれ以外の化学物質等に晒されてかつ業務に起因することが明らかだと認められるものについては労災給付の対象ということで取り扱っているところでございます」

 このような厚生労働省見解が出ているにもかかわらず、和歌山労基署や同労基署が依頼した専門医には、化学物質過敏症労災に対する予断と偏見があるのは合点がいかないところである。

 また、本件は労災申請してから決定まで4年もかかった。Oさんと神奈川労災職業病センターは何度も「本省協議扱いしないでほしい」と要請したにもかかわらず、本省協議の長期未決事案の延長記録を更新するばかりの4年もの空しい年月を費やした。そして、明らかに本省への要請時の見解や裁判所の判断と異なる不当なものだ。迅速かつ公正であるはずの労災行政は一体どこに行ってしまったのか!

 この間、Oさんは文字通り生死をかけて必死の思いで花王を相手に裁判を闘ってきた。しかし、和歌山労働局と和歌山労基署は労災の決定を引き延ばすだけ引き延ばして、不支給決定を下した。果たして裁判では原告Oさんが勝訴し、花王が控訴せずして判決が確定した。まさに原告勝訴の司法判断が労災行政の誤りを裁いた形になった。労災行政はこれをどう受け止めるのか! 既に厚生労働省は、化学物質過敏症の不支給処分を取り消した広島高裁岡山支部判決(2011年3月31日)で完敗している。

 現在、Oさんは不服審査請求中であるが、再審査請求が棄却された場合には行政訴訟も辞さない覚悟だ。労災行政は、労災認定業務の公正さを取り戻すためにも判決に従い早急にOさんの有機溶剤中毒と化学物質過敏症を労災として認めるべきではないか。【西田】