化学物質過敏症で初の後遺障害認定!
洗浄装置機内の配線作業等に従事し、化学物質過敏症になったTさんは、〇九年一〇月二二日付で厚木労働基準監督署から労災の障害認定一一級を受けた。化学物質過敏症の後遺障害が、労災として認定されたのはおそらく初めて。昨年一〇月には化学物質過敏症の治療に健康保険の適用が可能になり、治療を要する疾患として化学物質過敏症が社会的に認知されてきている中、Tさんが障害認定を勝ち取った意味は大きい。【西田】
化学物質過敏症で労災認定
Tさんは、二〇〇〇年一一月から取引先のK社(半導体の設計・制作業)で、半導体やガラスマスクの洗浄装置の機内配線や加工作業に従事したが、頭痛、めまい、吐き気等を感じていた。〇二年一月には痙攣が止まらず、自宅近くの茅ヶ崎市立病院で血液検査を行ったが、原因不明とされた。その後、北里研究所病院・臨床環境医学センター化学物質過敏症特殊外来で診察・検査した結果、中枢神経機能障害、自立神経機能障害、化学物質過敏症と診断された。同病院は、Tさんが曝露した化学物質を特定するため、工場が塩化ビニル板の接着のため使用していた接着剤「タキボンド二〇〇」の負荷試験を行った。その結果、タキボンドに含有される有機溶剤(テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン)による脳循環血流量の低下が認められ、これらの有害化学物質にTさんが過敏に反応することが確認された。この試験結果報告書が決め手となり、Tさんは〇三年九月二六日付で労災認定された。
うつ病で退職
労災認定されても化学物質過敏症にかかる治療の多くは労災適用されない。そのため自由診療分は雇用主のN社が負担していたが、社長から「もういいだろう」と言われたこともあり治療を中断した。しかし、その後も症状は続き、さらにうつ病になったTさんは〇九年一一月に会社を退職。そして、会社に対する悔しい思いをぶつける手立てはないのか、とセンターに相談に来た。センターは、まず労災の障害申請をしてはどうかとアドバイスした。主治医の坂部貢医師(北里研究所病院)は、症状固定後にも中枢性眼球運動障害があると診断しており、厚木労基署はこれを「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」に相当するとして障害認定を行ったのだ。
上積み補償を求めて交渉中
N社は就業規則の災害補償規定で、「社員が業務上災害により負傷し、または疾病にかかり治癒した時に身体に傷害が存する場合、労災法上の定める傷害補償給付の他、傷害補償を行う。この場合、本給の一八〇日分を一〇〇%とする」としている。これによって、Tさんは会社に対して労災上積み補償を要求することを決断し、現在、会社と交渉中である。
化学物質過敏症については、Tさん以外にも労災認定された事例は少なからずある。その中で、認定後に損害賠償請求裁判を提訴し、「防護マスクやゴーグルの着用を指示するべきだった」と被告側の安全配慮義務違反を認め、後遺障害の逸失利益を含む一〇六三万円の賠償を命じた判決も出ている【毎日新聞〇六年一二月二六日付】。
Tさんの場合も、K社は、有機溶剤テトラヒドロフランとメチルエチルケトンを含有する「タキボンド二〇〇」を使用しているにもかかわらず、換気装置もないところで呼吸用保護具も着用せずにTさんを働かせていた。K社の安全管理上の使用者責任はもちろん、直接の雇用責任を負うN社が安全配慮義務を怠っていたことも明らかだ。